JSMS Committee on Plasticity Engineering |
材料データベース研究分科会
主査 岡村一男(日本製鉄)
幹事 岡 正徳(ヤンマー)
沖田圭介(神戸製鋼)
焼入れ後の残留応力やひずみは,冷却中の熱応力や金属組織の体積差に起因する変態応力によって材料が塑性変形することで生じます.処理部品の焼入れひずみや硬度分布は製品の品質そのものとして管理されていますが,最適な処理条件を確立するまでには多くの試行錯誤が必要とされてきました.本分科会はこのような熱処理における問題解決にコンピュータシミュレーションを適用していく上で必要となる材料特性を整備し,データベース化することを目的に1995年に設置された組織です.
この10年間における分科会としての大きなトピックは,念願のデータベースを「MATEQ」と命名して2002年に一般公開することができたことです.MATEQは熱処理シミュレーションに必要な材料特性のうち,等温変態線図および連続冷却変態線図,熱伝導率および比熱の温度依存性,加熱・冷却時の温度-伸び関係,ヤング率の温度依存性,応力-ひずみ関係の温度および組織依存性のデータを数値データとして電子ファイルでデータベース化したものです.公開以来,3回のバージョンアップを行って収録データを増強し,最新版では変態塑性に関するデータを新たな材料特性項目として追加しました.現在では60弱の企業・研究機関で使用いただいています.シミュレーションには材料特性に加えて,冷却剤の冷却特性,いわゆる熱伝達率データや,シミュレーションソフトウェアが必要なことから,これらについても情報交換を行い,他の学協会等の研究会との連携も行っています.特に,熱処理技術協会の研究部会とは,焼入れひずみと残留応力の予測に関する共同ベンチマークを実施し,2001年と2004年に合同研究会を開催して成果報告を行っています.その成果の一部を連載講座(2006年5月〜8月)として本会会誌「材料」で紹介しています.
材料コスト削減の要請から合金元素によって材料強度を追求するのではなく,熱処理での金属組織制御による高強度化や表面改質が今後ますます重要になると予想されます.熱処理シミュレーションは既に企業においても実施されるようになりましたが,広く普及するまでには至っていません.それは,各々の製造現場で使用する材料やプロセスに固有のデータがないこと,シミュレーションの有用性が十分に理解されていないことなどが一因かと思われます.学会として個々の企業のあらゆる要求に応えることは不可能ですが,材料特性のモデル化やシミュレーションの適用事例を発信・交換する場として,今後も「ものづくり力」の強化へ向けて協力していきたいと考えます.また,現段階ではデータ数が少ない変態塑性挙動について,データの追加および変態塑性メカニズムの解明が今後期待されます.MATEQをさらに拡張しつつ,焼入れシミュレーションの普及,他の熱処理プロセスへの展開および技術深化に関する議論の場として機能することがこれからの10年における当分科会の在り方と考えています.
材料データベース研究分科会講演者,講演題目一覧
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